大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ツ)75号 判決 1975年8月11日

上告人 豊泉茂基

右訴訟代理人弁護士 平原昭亮

石川良雄

外川久徳

被上告人 西川好治

右訴訟代理人弁護士 姫野高雄

三森淳

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

本件上告理由は、別紙上告理由書および上告理由補充書に記載のとおりである。

上告理由書の一について。

原判決の判示するところによれば、被上告人は昭和三四年一二月一九日上告人に対しその所有にかかる本件土地(原判決書の略称)を売り渡す旨の契約を締結したが、同土地の地目は農地であって小作人が耕作していたため、右売買契約において被上告人と上告人とは昭和三五年六月末日までに都知事に対し農地法五条所定の許可申請をして、その許可を得ること、また右許可を得るためには小作人を離作させることが必要不可欠であり、小作人に対しての離作の交渉および離作料の負担はすべて買主である上告人ですることとする特約が付されていた旨の事実を認定したうえ、上告人が昭和三五年六月末日までに小作人の離作を実現しなかったので、被上告人が上告人に対し昭和四四年三月一二日到達の書面で同書面到達後一五日以内に本件土地から小作人を離作させるように催告し、同年四月一日到達の書面で、本件土地売買契約を解除する旨意思表示をしたことをもって同売買契約の解除は有効であると判断し、被上告人の請求を認容している。

以上によれば、原判決は本件土地から小作人を離作させることは上告人の被上告人に対する債務であると解し、その債務不履行を原因として本件土地の売買契約が解除されたものとしたことがうかがわれるのであるが、そのように小作人を離作させることが右債務であるとするのには、右離作がされないことによって、被上告人にどのような法律上の不利益がもたらされるか、その離作によって被上告人がどのような法律上の利益をえられるかを明らかにすべきであるにもかかわらず、そのことがなされていない。けだし、右不利益または利益の帰属および態様によっては、前記特約の趣旨はむしろ本来被上告人のなすべき右離作をさせる義務を単に免除し、または上告人との協力関係に軽減したことを意味するにすぎず、上告人において離作をさせることが被上告人に対する債務であるとすることができないこともありうるからである。

これを原判決が前記認定の資料とした甲第二号証の売買契約書によってみると、売買代金はすでに完済され、昭和三五年以後の公租公課等も買主である上告人の負担とされている旨が記載されていることからすれば、前記小作人の離作に関する特約が果たして上告人の被上告人に対する一方的債務であるか否か甚だ疑問であり、原判決が上告人に債務不履行があったとし、前示の点につき的確な判断を示さず、被上告人のした本件売買契約の解除を有効とし、その請求を認容したのは、理由不備の違法ひいては審理不尽の違法をおかしたものといわなければならない。してみれば、論旨中、上告人が小作人の離作を実現させることは、上告人の被上告人に対する債務でないとし、あるいは同離作を実現させないことによっても、被上告人はなんらの不利益を受けることがなく、契約解除事由となるべき債務不履行が存しないとし、原判決の違法をいう部分は理由がある。

よって、その余の論旨に対する判断をするまでもなく、原判決を破棄し、さらに審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 畔上英治 判事 岡垣学 唐松寛)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例